十二月二十四日(木)
準備に準備を重ね、ついに迎えたこの日。初めて過ごす恋人との聖なる夜。一生、忘れることのない特別な夜。でも、本当は、ユキエが一緒にいてくれるだけでいいんだ。 パーティ会場となる、ヒロキの部屋の模様替えも完璧だ。部屋中の壁には、模造紙に描かれた雪降る教会の景色。そして、部屋中至る所に、色とりどりのモールを張り巡らせ、隅には、高さ2メートルはあるクリスマスツリーを設置した。明かりを消すと、チカチカと部屋中からライトアップされるようになっている。BGMには、ワンニャンクリスマスソングで愛嬌を演出。後は、ユキエの到着を待つばかり。 午後6時、ユキエが到着した。 「うわー、すごーい。ヒロキもやるじゃん。」 「今晩は特別だからね。」 「そうね。ヒロキ、台所貸して。料理作るから。」 「オッケー。ケーキのかき混ぜる機械、友達から借りてきたよ。俺も、少し、手伝うよ。」 「ありがとう。よしっ、気合入れて、作ろう。」 「おー!」 ユキエのリードで、みるみる料理が完成されていく。チキンにパスタにケーキ。あっという間に完成した。 「キャー、出来たー!」ユキエが、まだ、調理で汚れている胸元に飛び込んできた。 「ご苦労様。俺、何も出来なかったけれど、やっぱ、ユキエの料理は、いつも、おいしそうだね。」 「ありがとう、ヒロキ。ヒロキも、こんなに素敵な部屋に改造して、大変だったでしょ。」 「どうってことないよ。さあ、食べよ、食べよ。」 シャンパンとキャンドル立てを机に出し、料理を皿に盛り付け、モールとキャンドルに灯を灯し、部屋の明かりを落とすと、部屋中が突然、別世界に思えるほど一変した。それとなく、クリスマスソングとお香の香りが漂い、予想をはるかに上回るムードとなった。あまりの部屋の変わりように、準備した自分でさえ、感動してしまった。 「うわー、すごいね、ヒロキ。こんな演出、準備していたんだァ。」 「まあね。乾杯しようぜ。ユキエ。」 「うん。」 ポンと栓を抜くと、このために買ったペアグラスにシャンパンを注いだ。テーブルの前で、ユキエと向き合うと、 「ヒロキとの出会いに、乾杯。」 「ユキエとの出会いに、乾杯。」 チーン。練習の成果もあって、綺麗な音色が部屋を奏でた。しばらく、心地よい雰囲気に会話が弾んだ。 「ユキエ、この先の教会でサ、今晩、何か催しがあるらしいから、後で行ってみない?」 「行く、行く。面白そうじゃない。」 食器を片付け終えると、最後に二人で、アーノルド・シュワルチェ・ネッガー主演の「ジングル オール ザ ウェイ」を鑑賞。 「シュワちゃんて、アクション系の映画ばかり出演していると思っていたのに、こんな役柄もしているのね。面白かったあ。」 「あれも、ある意味、格闘だったけれどもね。」 ユキエを連れて、教会に足を運んだ。入り口でパンフレットを受け取ると、礼拝堂に入った。中には、家族連れやカップルなど、たくさんの人達が参加していた。ユキエと後ろの空いている席に入ると、神父さんの合図と共に賛美歌の合唱が始まった。何とも神々しい雰囲気である。お祈りの時間がやって来た。 ヒロキは、神様にユキエとの出会いに感謝を捧げた。帰りには、来年のカレンダーが全員に配られた。 「来て良かった。ねっ、ユキエ。」 「うん。カレンダーももらったし、ヒロキも今すぐ、私にプレゼント頂戴よ。」 今すぐ、というフレーズで、ユキエの言わんとすることが分った。 「メリークリスマス、ユキエ。」 真っ暗闇の中、電柱の明かりの元で、優しくユキエにキスした。 部屋に戻ると、お互いのプレゼントを交換することにした。 「ヒロキの、なあに?」 「まあ、まあ、開けてみそ。」ユキエにプレゼントしたのは、ネックレスにマフラーだ。ユキエのプレゼントは、手編みのセーターで、早速、着てみた。 「うん、ピッタリだ。ありがとう、ユキエ。それじゃ、ユキエ、帰り気をつけてね。」 「うん、次は、私の誕生日だね。ちゃんと、覚えてる?」 「勿論。1月6日。その5日後が、俺の誕生日だよ。」 「そうね。」 「明日から、大分の実家に帰るから、次、会うのは来年だね。それまで、元気でね。年賀状出すからね。」 「うん。私も出すね。また、来年会えるの、楽しみにしているね。ヒロキ。」 今年は、サンタクロースから、特別なプレゼントをもらった。決して、ソックスには、入らないけれど。
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