一九九九年未明
「ねえ、ヒロキが、将来、本当にやりたいことって何なの?」最近、ユキエが、口を尖らせて聞いてくる。 「前にも話したけれど、まだ、はっきり決まっていないんだよ。そりゃ、高校までは獣医になりたかったけれど、大学受験は、失敗したし。それで、今の大学入ったんだけれど。」 「だったら、また、勉強し直して、受験すればいいじゃないの!あと、十年経って、獣医になりたかったのになあ、なんて言っても遅いのよ。」 「分っているよ。そんなこと。」 「分っていないわ。だって、ヒロキ、言動と行動が伴っていないんだもの。受験が難しいからって、将来の夢を簡単に諦めていいわけ?」 「だから、もう、獣医にはならない、って言っているだろう!俺には、俺のビジョンがちゃんとあるんだから。」 「それは、本当にヒロキがやりたいことなの?」ユキエは、いつも、やりたいこと、やりたいことって口癖のように言うが、実際、自分が本当に何をやりたいのか、今は、検討も付かない。 「ヒロキ、前、大学院行きたいって、少し、言っていたわよね。だったら、私、付いていけないわ。これから、また、2年以上も学生続けるつもりなんでしょ。」ユキエの罵倒が胸に突き刺さる。でも、本当の自分は、一体、何がやりたいのだろう?出せない答えに気持ちだけが焦る。 「ごめん、ユキエ。その事に関しては、まだもう少し、時間くれないか。でも、勘違いしないで。ユキエのこと、本気で愛しているから。」 「今は、言葉より実際に行動が欲しいの。」 ユキエは、今、一番大切な存在だ。だからといって、即、就職して養っていくことなどできるだろうか。やりたいこと、って見つかるようで、そう容易な問題ではない。今までは、ただ二人でいてお互いを思いやっているだけで幸せだった。 将来。この二文字が、二人の間を大きく隔てた。社会人のユキエと、未だ、学生のヒロキ。ユキエにしてみれば、早く自立して養っていく準備をして欲しい。ヒロキにしてみれば、自分に合った方向をじっくり決めたい、という一歩も譲れない二人の主張から、ついに音信も途切れていくようになった。 半年後・・・。 「じゃ、行ってくる。」 「ヒロキ、何か忘れてない。」 「ああ、あれね。はい。」 「ん。」 「頑張ってくるのよ、来年こそは、ちゃんと獣医学部に入るんだから。」 「ああ、勿論だよ。今晩は、外食するから、飯はいいよ。」 「分ったわ。私も今晩、サークルだから、遅くなるかもしれないわ。」 「じゃ、行ってくる。」 彼女が見送る中、ヒロキは、予備校へと駆け出した。 エピローグ
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